「泉」から「いづみ」へ その9
- 2006/06/30
- 00:54
「洋子さん、例のコ、連れて来たわ。」
わたしは美佳さんに美容室に連れてこられたのでした。
「泉ちゃんでしょ。いい線行ってるじゃない。」
あれからめぐみさんに教えてもらいながら洗顔して、着替えをしました。
お出かけすると聞いていましたので、未練たっぷりでしたがブレスト・フォームを外しました。
男物の下着に着替えようとすると、めぐみさんがわたしのタンスの下の段を開けて言いました。
「泉ちゃん、パンティは判らないから女物になさいよ。それと、ズボンの下にこれを穿くといいわよ。」
いつの間にかわたしのタンスには女性の下着が詰まっていました。
「それ、どうしたんですか?」
「ウチの会社って下着を扱っているでしょ。それで、アウトレット品といって、パッと見には分からないくらいの不具合がある製品のストックがかなりあるのよ。あとはみんなのボランティア。」
「これ、みんな頂いちゃっていいんですか?」
「その分きちんとお仕事してね。あっ、これは美佳さんの口癖だったわ。さっき言いかけたのはキュロット・ペチコートって言うんだけど、パンツ・スタイルの時に下に穿くと気持ちいいのよ。」
男物に着替えて食堂に行くと美佳さんが朝食を食べていました。
「泉ちゃん、若いのね。ここまで聞こえたわよ。」
わたしとめぐみさんは顔を見合わせてしまいました。
「11時に行きつけの美容院を予約したから、遅れないようにね。泉ちゃんは食べ盛りだからたくさん食べるのよ。いくら食べても太らないんでしょ?」
「中学まではチビでやせっぽちだから、いつもからかわれていたんですよ。」
わたしは身長が162Cm、体重が45Kgで学校では前から数えたほうが早かったのです。
「女の子は気にするのよ。もっともみんな甘い物には目が無いんだけどね。そうでしょ、めぐみちゃん。」
「わたしも美佳さんみたいにスマートだったらいいんですけど・・」
「めぐみちゃんはバランス良くヴォリュームがあるから大丈夫よ。」
「そうですかぁ。あと3Kgは落としたいんですけど・・」
いかにも女性らしい会話ですよね。そうしたら、急に美佳さんの表情が真剣になりました。
「泉ちゃん、女の子になる覚悟は出来てるわよね?」
わたしもそのつもりだったので、「ハイ」と頷きました。
「いきなりすべて女の子になれる訳ではないから、徐々にやっていくわよ。最初はヘアースタイルからね。」
母さまがうるさく言わなかったおかげで、もう半年くらい床屋に行っていませんでした。
おかげで、耳がかぶるくらいの長さにはなっています。会社の面接の時は母さまが先だけ切り揃えてくれました。
「最初は男の子と女の子の中間くらいの感じにしましょうね。外に出る時はとりあえず男の子のままでいいわよ。急に女の子の恰好させられたら、困っちゃうでしょ?」
美佳さんの言うとおりです。お部屋にいる時はみんな知っているからいいですが、外に出て何かあったら、変態扱いされてしまいます。
「髪が伸びてきて自然に見えるようになったら、一日中女の子でいられるようにしてあげるから。その時に恥をかくことがないように、みんなで訓練してあげるからね。」
こうやって少しづつ女の子になっていくんですね。時間になったので、歩いてすぐのところにある、
「ミスティ」という美容院にやって来たのでした。
「美佳さん、どんな感じにしようか?」
今話している洋子さんは「ミスティ」の店長で、美佳さんとは10年来のお付き合いだそうです。
「ユニ・セックスで行ってみようよ。」
美佳さんはまるで友達のように洋子さんに言いました。このひと、いくつぐらいなんだろう・・
「じゃあ、やっぱりボブしかないわよね?」
「そうそう、男の子にも女の子にも見える感じ。」
「けっこう太くてヴォリュームあるから、伸びてきたらとってもキュートになるわよ。」
「お嬢さまっぽく内巻きにするんでしょ?」
「ああ、今からその姿が見えるようだわ。そうだ泉さん、スタイル・ブック見てみる?」
洋子さんがヘアー・スタイルの見本を見せてくれて、色々説明されました。
「今日はこんな感じね。それで2ヶ月くらい伸ばせばこんな風になるのよ。いかにも清楚なお嬢さまって感じだけど、ちょっと濃い目にメイクすれば若奥様みたいにも見えるのよ。」
洋子さんがページをめくると、さっきと同じスタイルのずいぶん大人っぽい女性が写っていました。
「けっこう年配のお客様でもこのスタイルの方が何人かいらして、案外人気あるのよ。今から楽しみにしていてね。」
それにしても、どうして洋子さんはわたしが女の子になる事が分かっているのでしょう。
「泉さんが面接に来た時に美佳さんがウチの店に来て、嬉しそうに計画を話してくれたのよ。」
という事は、わたしが女の子になるって、初めから決まっていたんですね・・
なんだか美佳さんに上手く乗せられたみたいですが、わたしはそれで満足してしまっているのです。
それからほんの少し髪をカットされました。洋子さんに言われて鏡を見ると、長さは殆ど変わっていないのに、さっきまでとは違った感じになっていました。
「毛先に流れをつけたから違う感じがすると思うけど、不自然じゃないでしょ?」
「うーん、さすがね。まさにユニ・セックスだわ。泉ちゃん、洋子さんっていい腕してるでしょ?」
毛先のカールをセットしていた美佳さんがいつの間にかこちらを覗き込んでいました。
「今日はこれからお買い物しましょうね。色々揃えるとお金が掛かっちゃうから、私が半分出してあげるわね。」
「でも、お姉さまたちに怒られませんか?」
「大丈夫。社員が仕事をしやすいように環境作りするのが私の役目だから。会社をこれ以上大きくするつもりはないし、これまでだって他のみんなにも色々してるのよ。」
さすが社長なんだな、と思いました。わたし、どこまでも美佳さんについて行きますので・・
「お話が盛り上がっているところ悪いんだけど、泉さんにこのトリートメント使ってもらえないかしら?髪のツヤが全然違ってくるのよ。これも社員のためでしょ、社長さん。」
「相変わらず商売がお上手ですこと、洋子さん。たしかにフワッとしてツヤのある髪は魅力的よね。じゃあ、それも頂いておこうかしら。」
「たしかおたくのめぐみさんにも同じものを使っていただいているから、使い方を彼女から良く聞いて使ってくださいね、泉さん。」
わたしはどうもピンと来なくて、洋子さんに尋ねました。
「わたしも女の子みたいな、素敵な髪になれるんでしょうか?」
「それは保証しますよ。とにかく毎日のお手入れが肝心ですから、しょっちゅう鏡とにらめっこして下さいね。」
ようやく第一段階がスタートしました。
女の子になるのは大変そうですけど、お姉さまたちに喜んでもらえるようになりたいです・・